ポーチ　満州の晴れた空のもと咲く春の花畑

　2019年1月に亡くなった父は、満州からの引き揚げ者。そして、父が亡くなってからずっと満州のことを調べていたのですが、満州にも平和な時代があったのです。今回のポーチは、その平和な時代、満州の開拓団の子どもたちが青空のもと、遊んでいた、春のお花畑を表現しました。満州の春も日本と同じで黄色い花から始まるらしい。福寿草がまず咲いていたようです（中には紫色の雪割草だったと記録している人も）。でも、ここで花のことを話すのはやめて、私にとっての「満州のこと」から導き出された、「平和への願い・自分の頭でものを考え行動すること」について書きたいと思います。
　私が、まだ小学校2年生ぐらいの時だったと思うけど、父へのお歳暮の中に、ピストルの形をしたライターがありました。その頃は、刑事ドラマが流行っていた頃で、その真似で、仕事から帰ってきた父に、そのピストル型のライターを向けたら、父は急に青ざめた顔をして、気付け薬の「救心」を飲んで、「早くそれを片付けろ！」と私を怒ったのです。母も、「何をする！」と怒って、その頃は、父が引き揚げ者であることを知らなかったから、「なんで怒られるんだろう？」と不思議に思いました。今にして思うと、父が引き揚げ途中で、ソ連兵に銃口を向けられたことがあったのだろうと、そしてそのことを思い出したのだろうと察するのですが、その頃から、私の中で「満州のこと」から導き出された「平和への願い・自分の頭でものを考え行動すること」がベースの一つになっていったのかもしれません。
　父が、「昔、子どもの頃住んでいたところで、アカシアの花の天ぷらをよく食べた。うまかった」と言っていたのも小学校2年生ぐらいの頃から（満州のアカシア・特に大連は有名です）。そして、小学校5年生くらいのことだろうか？祖父母の家にお盆休みで遊びに行った時、祖母に「おばあちゃん、今何歳？」と聞いて祖母が年齢を答え、父にも「父さんは何歳？」と聞いて、13歳しか歳が違わないので「おばあちゃんは、13歳で父さんを生んだの？」と聞いたら、一瞬空気がシュッと硬くなり、父は部屋から出て行きました。祖母と私だけがリビングに残り、祖母が私に「お前の本当のおばあさんは、満州というところで亡くなったのだ。お前のお父さんは、子どもの時に、苦労して、満州から引き揚げてきたのだ。お前には、もう一人、おばさんがいたんだけど、引き揚げ途中で、赤ちゃんの時に亡くなったのだ」と教えてくれたのです。そしてその時、祖母に、「お前は、おばあちゃんが、本当のおばあちゃんじゃなくても、おばあちゃんのことが好きか？」と尋ねられました。私は「私は、おばあちゃんが本当のおばあちゃんでも、そうじゃなくてもおばあちゃんのことが大好きだよ」と答えたら「お前はそう言うと思っていた」と、少し寂しそうに祖母が言って微笑んだのですが、その時の祖母の表情を今でも覚えています。どこか思いつめたような遠くを見る哀しいまなざしでした。
　ちょうどその頃、お墓を整理することになり、法要が営まれ、お墓を開けた時、真っ白い質の良い紙で包まれたものが二つ寄り添って置かれていて、母に「あの紙包み何？」と聞いたら、「あれは遺髪だ」と言うので「誰の？」と聞いたら「お前は知らなくても良い」と言われたのですが、祖母から話を聞いていた私は、「ああ、あれが私の本当のおばあさんとおばさんのものなのだなぁ」と思いました。その紙の白さが今でも目に焼き付いています。多分父が大事に持って帰ってきたものを、白い和紙で包んだのだろうと思ったのです。そこだけ、切り取られたように美しく哀しげで、寄り添うように置かれていた真っ白い二つの紙包みの風景。雨風がお墓の中に染み込んで、汚れていてもいいはずなのに、哀しいほど美しく、清らかな真っ白な紙包みでした。「なぜ、遺髪しかないのか？なぜ、お骨がないのか？」とは聞けなくて、どういう経緯で遺髪だけしか持って帰ってくることができなかったのかを、父が亡くなって満州のことを調べて知ったのですが、引き揚げ途中では火葬などできなかったのです。持ってくることができたのは、遺髪や爪、小指を切ったもの、着ていた衣服の切れ端などだったとのこと。
　書き始めるとキリがないので、この辺で、満州のことを書くのはやめますが、満州に住んでいた頃、医者になることを目指していた父がなぜ、「中学校の教師」という仕事を選んだのか、、。もちろん経済的な問題もあっただろうけど、今にして思うと、「平和を愛する、自分でものを考え行動できる、ある程度、分別のついた頃の子どもたちを、父は自分で育てたかったのではないか？」と察するのです。父は、引き揚げという体験から、戦争のような悲惨で残酷な行為を、将来のある子どもたちにさせたくないと。そのために平和を愛し、お互いを大切にしあい、自分でちゃんとものを考える子どもを、自分の手で、育てようと思ったのではないかと。私自身が、父からそういう教育を受けているので、なおさらそう思うのです。父に対してはいろんな思いがありますが、この点に関しては「そこは私もおんなじだ！」です。今どきのカリキュラムでは、小学校で英語やプログラミングを必修科目で教えているみたいだけど、子どもは、自分でものを考えるという教育を受けていれば、自分が何をしたいか見つけた時に、自分で動けるのです。そして、協力してくれる大人や仲間を大切にして、みんなに頼めば、ちゃんと協力してくれる、助けてくれる、ということもわかるのです。人を信頼するということを体得するのです。その、ベース作りが小学校・中学校の義務教育の頃だと私は思うのです。英語や、プログラミングのことは、子ども全員に無理やり教えなくても、ちゃんと育てられた子どもなら、必要だと自分で思えば、子どもは自分で学びます。「今の教育、なんか間違ってない？」と思うのですが、、、、。そう思うのは私だけか？ちまたでは、「おかしいよね」と言う声がちらほらしているけど（私の周囲で聞かれる勝手なつぶやきです）。
　子どもが子どもらしく、青空のもと、お花畑の中で遊んでいる風景を今回表現したくてこのポーチを作りました。バッグの試し編みであることと、お裁縫が苦手な私の腕と、そこそこ材料費がかかっていることを考慮した価格設定です。以前、アップした、「いちめんのなのはな （山村暮鳥　風景　純銀もざいく　からのインスピレーション）」のポーチとデザインはほぼほぼ同じですが、使用糸や、裏地、ファスナーが違います。
　ウクライナをはじめ、地球上で戦争は起こっている。戦争は絶対いけない。弱い立場の子どもたちが犠牲になるような世界ではいけないという平和への願いも込めています。

《使用糸》 インカント（イタリー製）ウール49％　コットン26％　ナイロン13％　アクリル8％　
　　　　　　　　　　　　　　　レーヨン4％
　　　　　スペクトルモデム　ウール100％　
　　　　　シェットランド　ウール100%（英国羊毛100％使用）
《裏地》 国産　綿麻混
《ファスナー》YKK 国産