いい ちいさな ものづくり
暮らしに嬉しいひとときをプラスする。宋艸窯+の心ほころぶ陶器とこぎん刺し
ー作り手
陶器とこぎん刺しを制作する宋艸窯+(ソウソウガマプラス)さんは、桜島を眺めながら鹿児島市を海沿いに北上した姶良(あいら)市にあります。丁寧な手仕事から生まれるぬくもりのある陶器とこぎん刺し、宋艸窯+さんのものづくりをご紹介します。
現在、しのぎ技法を使った器を中心に制作販売しておりますが、定番品以外にも陶器の持つ可能性を探る日々の中で生まれてくる様々な器を紹介したいと思いました。
陶器の持つ可能性を探りながら制作する毎日ですが、そんな中から生まれてくる一点物の花器や一輪挿し、変形の器、練り込み・掛け分けなど。
合わせて、並行して制作しているこぎん刺し商品も展開していきたかったので。
宋艸窯+さんが主に取り入れている “ しのぎ技法 “ は日本の伝統的な陶芸の技法のひとつで、ヘラやカンナなどの道具を使って表面に稜線文様を削り出します。
器類は土の素材感や釉薬の色味など、工業製品にはない手仕事ならではの微妙なゆらぎとおおらかさを大事にしています。
うつわの表面を削って凹凸をつけることで表現される「しのぎ」の器は和にも洋にも合う、シンプルなかたちと多彩な釉薬が魅力です。
土は熊本県天草の赤土と滋賀県の信楽白土をブレンドして使用。成形は手びねりやロクロ、型を作品に合わせて使い分けているそうです。ぽってりと、おおらかな形に刻まれる稜線文様があることで、デザインとしての凛々しさはもちろん釉薬の溜まりが生まれ、深い色味と地の穏やかな白色がより引き立ちます。
箸置きのモチーフは桜島、オッのコンボ、田の神さぁ、椿、桜島大根など、鹿児島由来のものが多く、食卓のアクセントにこれからも身近なものを形にしていきたいです。
器だけでなく、思わず心がほころぶ可愛らしい箸置きも制作されています。モチーフは窯がある鹿児島ならではのものや野菜などが並び、今日はどの箸置きを使おうか悩み眺める時間も楽しくしてくれるものばかりです。
また、青森の伝統的な刺し子の技法のひとつである “ こぎん刺し “ の作品も制作されています。
こぎん刺しは、一針々々刺していくことで幾何模様が作られ、また刺すことで厚みが増す機能性もあります。
元々は麻布に補強と保温性のために刺し始めたのが始まりですが、伝統的な模様を組み合わせながら、幾何学模様と直線の美しさを生かした、今の生活になじむ普段使いのものを心がけています。
こぎん刺しは青森の寒い冬を越えるため、少しでも麻布の隙間を埋めて保温力を高めること、またすり切れた部分を繕うために施されたそうです。厳しい環境の中でも生き抜く知恵と、美しく繕うことを忘れずにいた当時の人々の意思が反映された、緻密で鮮やかな刺し子のアイテムが暮らしを彩ってくれます。
器とこぎん刺し。この2つを制作するに至った背景について詳しく伺いました。
ーものがたり
宋艸窯+さんでは、器は竹之内琢さんとお父様の彬裕さん、そして小物やこぎん刺しは琢さんの奥様である眞弓さんが制作されていらっしゃるそうです。
まずは竹之内琢さんが陶芸の道に入られたきっかけを伺いました。
父の元で本格的に陶芸をはじめたのは、32歳頃のこと。
幼い頃よりいろいろと作ることが好きだったので、迷わず石川県の金沢美術工芸大学に進学。そして鋳金(ちゅうきん)を専攻。
卒業後は、京都に移り、彫刻家のアシスタントなどの仕事に従事。
この頃みた、川喜田半泥子の茶碗に感銘を受け、陶芸の道を志しました。
琢さんが感銘を受けたという川喜田半泥子氏は、「東の魯山人、西の半泥子」と称されるほど文化人として名を馳せた人物でした。60代を過ぎて始めた陶芸でも才能を表し、その作品は現代の我々から見ても斬新で新しく見えます。常識にとらわれない一方で、土そのものや手仕事から生まれる風合いを大切にしていたことも感じられます。
「宋艸窯」の名前は、陶磁器の全盛期と言われる中国・宋の時代にあやかった「宋」の字と、草のように根を張っていこうと、「草」の旧字体である「艸」の字を組み合わせたもの。
その名の通り、さまざまな作風の優れたうつわが生まれた宋の時代のように、あらゆる技法を柔軟に取り入れ、その仕事は、生活に根差したところに発しております。
窯への命名にもある通り作品のバリエーションは広く、かつより良いものを届けるために技法を限定することなく制作されています。定番の器に留まらず陶器の持つ可能性を探る日々の中で生まれる様々な陶器も紹介したい、という思いで向き合ってこられたそうです。
次に、眞弓さんのお話も伺いました。
眞弓さんは琢さんと同じ金沢美術工芸大学で織物を専攻した後、織物会社でカーテンなどのインテリア商品の開発に関わられました。退職後、1年間陶器について学んだあと鹿児島に移住し、宋艸窯で小さな陶小物を制作されていました。
そして2015年、50歳目前に転機があったそうです。
2015年頃よりこぎん刺しをはじめて、布の魅力を再確認。こぎん刺しの技法を用いて布小物も製作し始めました。
「布芸展」という展示で初めてこぎん刺しを知りました。くり返しの幾何文様が一針一針刺していくことでできることに感動して、一点の巾着を購入。
実際に使うことで良さを感じつつ、自分でも作りたい気持ちが沸々と‥
当時、50歳目前で、人生半分きたし残り時間も少ないのでやりたいことやっとこうといきなり作り始めました。学生時代に織物を専攻していたので、布、糸などの繊維に対して募る思いがあったのかもしれません。
本など見ながら、独学で始めて悪戦苦闘しつつも作り続けるうちにおぼろげながら光が射してきた感じです。
陶芸とこぎん刺し、形は違うように見えますが、暮らしの中にあたたかな感動を生み出そうという源流はつながっているように感じます。
ー想い
器もこぎん刺しもプラスすることで毎日が嬉しくなるものを
日々の暮らしがほんの少しでもプラスの方向に
普段使われるものが誰かの日々の喜びになれば、という想いが込められたブランドのコンセプトです。
宋艸窯+さんの作品はどれも存在感がある、けれど優しく暮らしに馴染む心地よさがあります。穏やかなまるみを帯びた陶器、一針々々丹精込めて縫われたこぎん刺しは使うほどに味わいが生まれ、穏やかな時間を作ってくれることでしょう。
手に取ってくれた方に嬉しいひとときが訪れるよう、願いを込めて作られた陶器やこぎん刺し。シンプルなデザインと技法だからこその誠実で丁寧な仕事ぶりが美しい、宋艸窯+さんの作品をぜひご覧ください。
ー作り手情報
2021年7月29日