Fly me to the moon

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「384400km」
彼女はまるで他の誰かがそこにいるかのように気だるく話しかけた。

僕にはそこに何も見ることが出来なかったが、
彼女は確実にその見えない何かに向けて話しているように思えたので
僕は黙ってバーカウンターのライトをただぼんやりと眺めていた。

「ねえ、歩いて行けない距離でもないのよ」
彼女が僕の方を向いて真面目な顔で言った。

「う、うん」
咄嗟の切り返しにそんな返事しか出てこなかった。
僕は時間を稼ぐために、もう水みたいに薄くなったバーボンをひと口飲んで
それから頼りなく当たりさわりのない質問をした。

「例えば歩いたとしてどのくらいの時間がかかるの？」

彼女は左手を軽く上げてバーテンダーを呼ぶと
「カンパリソーダ、少し濃い目でね」
と言い細いはっか煙草に火をつけひと口吸ってから話はじめた。

「１１年」

僕が「え！？」と聞き返すと、彼女は仕方なさそうに左手で頬杖をついてもう一度
「じゅういちねん」
と言ってはっかタバコを吸った。

「木星や火星にどんな春が訪れるのか見てみたいわ」

バーテンダーが「ここしかない」という絶妙なタイミングで
カンパリソーダを彼女の目の前にそっと差し出し去って行った。
僕は助け舟が欲しかった。彼がそこにとどまりグラスでも磨きながら
聞こえない素振りでこの話を黙って聞いていて欲しかった。

「私ってちょっと変わってるかしら？」
そう言うと出来たてのカンパリソーダをひと口飲み、
そして彼女はタバコの灰を灰皿に落とした。

バーテンダーが確信的な足取りで近づいて来ると
「一曲リクエストはいかがですか？」
とジャズバンドの方を見ながら言った。

僕はそんなバーテンダーに心の中で拍手を送った。
見えないところでチップをあげてもいいくらいの気の利いた仕事だった。

彼女は少し考えたふりをしてから
「じゃあ、Ｆｒｙ　ｍｙ　ｔｏ　ｔｈｅ　ｍｏｏｎをお願い」
と言い席を立ちお手洗いに向かった。

僕は、ほっとため息をつき残った薄いバーボンを飲み干した。
それから、演奏を始めたバンドに気のない拍手を送った。

強いアルコールの香りと目に滲みる煙草のけむり
ジャズと人々の話し声が混ざり合い、身体は月の裏側にいるみたいに重く感じた。
大きなガラス張りの窓からはオレンジ色の満月が文字通り浮かんで見えた。
バーボンオレンジソーダが無性に飲みたくなった。

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作品名「Fly me to the moon」

純銀製
マット仕上げ

流線型でかっちりしすぎず温かみのあるデザインです

参考写真で薬指のものは3㎜幅前後10号、
中指のものは4㎜幅前後11号

表面に細かな銀の粉をコーティングすることでオリジナリティある仕上がりになっています

男性にもおすすめ
記念のリングとしてお揃でつけたり
プレゼントにもおすすめです


【購入の注意点をよくご確認の上ご購入ください】